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第3章 財務を改善する役割

1.後継者難の真の理由

 現在、中小・零細企業において、大きな課題の一つは、後継者をいかに作るかということである。自治体や商工会議所などが主催する公的なセミナーにおいて、そのテーマの中でも、もっとも多いのがこれである。中小・零細企業において、経営者が高齢化している現状があり、後継者難、後継者問題が大きく注目されている。

 中小・零細企業における後継者問題は、二つに分けで考えなくてはいけないとされる。一つは、財務内容が良好なのに、後継者を育成してこなかったので、後継者がいないという企業群である。もう一つは、財務内容が良くないために、企業価値が小さく、すすんで後継者になる魅力に乏しい企業群である。二つに分けて、後継者問題は解決されなくてはいけない、とされる。

 前者の財務内容が良好な場合は、問題の解決は早い。現在の経営者の家族が後継者になりやすいし、家族以外の人物を後継者に指名する場合も、財務内容が良いのだから、解決は、比較的容易である。株式の移動など、金銭のやり取りがあるケースもあるだろうが、それでも比較的容易だと思われる。

 問題は、後者の財務内容が良好でない企業群の場合である。この場合に、財務内容が悪いということは、売上高や利益の現状、すなわち損益計算書上の問題もあるだろう。この視点も決して軽視することはできない。しかし、企業価値の大小は、むしろ借入金の多寡、自己資本比率の多寡などの貸借対照表上によって、多くは判断できると思われる。

 借入金が多くて自己資本比率が小さい中小・零細企業の経営者は、借入金を起こす場合に個人保証をしていることが多い。結果として、財務内容の悪い企業群は、その経営者の個人資産も少ないという、二重の意味で救いようがない状態となっている。日本の中小・零細企業の経営者は、資金力がないばかりか、会社の多大な借入金に縛られている。そういう企業において、すすんで後継者になろうとする家族なり、社員なりは少ないのである。これが後継者難の一方の原因であると考えられる。

 そして、日本の中小・零細企業においては、後者の、経営が借入金に依存している企業群が非常に多いのである。借入金に依存し、財務内容の悪い企業群のほうが、財務内容が良いのに後継者がいないという前者の企業群よりも多いのではないだろうか。多くの企業群の企業価値は小さく、この場合の後継者問題はより深刻である。これが、多くの企業の後継者難の真の原因となっているのではないだろうか。

2.仕事がほしい

 この第3章は、荒っぽい論述になるかもしれない。しかし、ときには意義の大きい論述を展開するために、荒っぽい面も必要かもしれないと思い、勇気を出して書き進めていくことにしよう。

 2008年、前年のサブプライム問題に端を発した金融不況が本格化した端緒が、10月8日の水曜日であった。株価の下落率は10%に近づき、日経平均株価は9150円へと低下した。その株価下落は、その後の世界的な不況が迫っていることを示していた。

 その渦中において、不況を予感させる経済指標が次々に発表されていた。そして、政府は、中小・零細企業への融資の円滑化を図る必要性を声高に主張していた。そんなある日、テレビのニュース番組で、零細企業と思しき企業の社長がインタビューに応えていた。「我々は借金をしたいのではありません。仕事がほしいのです」と。この応答を視聴していた私は、「そうだろうな」と納得顔をしたのである。

 その後も、政府は、中小・零細企業の資金繰り支援のために、政府保証を付加した低利の貸し出し法案を可決していった。それらの法案によって、資金需要の大きくなる年末の資金繰りを支援する、という触れ込みであった。

 しかし、私の見解は違っていた。前述の零細企業の社長の立場に立てば、次のような述懐になるのではないだろうか。「仕事の注文が来て、それで会社が利益を上げるような政策をしてほしい。低利でも借金をすれば返さなくてはいけない。そしてその借金によって、我々のクビは絞まってしまう。借金ではなく仕事がほしいのだ。これが我々の本音である」と。この述懐には、不況下における経営者の、この時代における苦渋が込められていた。

3.「借金」の嫌いな理由

 私が「借金」を嫌いな理由を記述することにする。

 私の父は1908年(明治41年)生まれで、1997年に他界している。私はこの父が40歳のときの子供である。

 第二次世界大戦以前の父の経歴は省くが、戦後の復興期に、父は、ある管工事関係の建築会社の創業者の一員となった。ある一家が実際の創業者だったのだが、その創業において父もまた、一員としてそれに参加したのである。創業以来、その会社は、日本の高度成長期の恩恵を浴して、父が退職する1980年代には500人ほどの従業員を抱える中小企業に成長していた。父は、創業以来、財務部門を担当し、経理部長を経て、1970年ころには、財務担当役員となった。創業者の一員としてその会社の株式を持ち、給与はもちろん配当も多く、父の収入は相当なものだったと見られる。そのため、小さいとはいえ都心に自宅を構え、そのほかの株式なども増え、蓄財もある程度、増えていた。父が他界したとき、姉二人の長男である私は、三分の一の遺産を相続したのである。私が、このような文章を書きながら、少ない収入で何とかやっていけるのは、この遺産があったからである。そういう意味で、いま私は、父に対して深い感謝の念をもっている。

 その父から直接聞いたのか、あるいはほかの社員から聞いたのかは忘れたが、父は財務担当役員として会社の財務方針を決定する立場であった。どういう方針かと言うと、借入金を最小限にする財務内容を維持するというものであった。個人的には、社宅を出されるときに、自宅の土地と家屋の購入費はローンを組んだが、会社の財務的な方針は、無借金経営だったのである。借金は最小限にするというのが、父親の公私にわたる方針だったのである。

 この父の方針に、私は影響を受けていると思う。私はこれまでの人生で、借金をしたことがまったくない。そういう恵まれた経済環境に置かれていたと言えばそれまでだが、前述の父の影響もあり、借金嫌いの人間になったのである。その嫌い方は、少し度を越えているとさえ、自分で思う。

 私は、現在の消費者金融に対しても大きな疑問を持っている。というのも、いま、銀行に一年定期預金を預けると、年利0.1%に満たない金利での運用を余儀なくされる。一方で、消費者金融の金利は、年利15%を超える金利も珍しくない。実に150倍の金利である。この金利は高すぎるのではないか、と私は思うのである。

 元金融庁大臣である竹中平蔵は、「消費者金融の金利は競争原理が働いた価格なのだから、規制すべきでない」と述べている。私は同氏の著書を読んで、その勉強家振りを評価しているが、この消費者金融の金利についての考え方には反対である。ここでは詳しく論じないが、消費者金融会社は、「暗黙の談合」によって暴利を貪っているとしか思えない。近年、最高金利が決められて金利は下がったとは言え、それでも暴利だと思うのである。私は、消費者金融については、強権で規制すべきだと考えている。消費者金融の商売を私は嫌いであり、どうかこんな借金に手を出さないようにしてほしいと、切に願うばかりである。

4.無借金経営のすすめ

 私は、中小企業診断士として「財務管理」を勉強した経歴を持っている。財務管理とは、企業の財務諸表を分析し、財務内容の優劣を分析・評価するものである。勉強としては、大企業の財務管理も手がけるが、実践的には中小・零細企業の財務内容を分析することが多い。

 大企業の財務管理を勉強していく過程で、私はその自己資本比率の大切さを思い知った。

 実は、高度成長期の日本の大企業は、「自己資本」を軽視してきたと言える。一部の大企業を除き、金融機関からの借入金が非常に多く、その結果、自己資本比率が低い企業がほとんどだった。

 ところが1991年のバブル経済の崩壊を契機にして、この自己資本比率を高めることの重要性を、多くの大企業が認識するようになる。それ以後の大企業の多くは、できるだけ借入金を返済し、借入金比率を減少させる経営方針を採用した。すなわち、自己資本比率を高める方針を採用したのである。私も財務管理を試みるに当たって、自己資本比率というものをより重視するようになった。

 こうした多くの大企業の財務戦略の一方で、イトーヨーカドー(現・セブン&アイ)やトヨタなどの一部の大企業は、一貫して無借金経営を実践してきた。スーパーマーケットで言えば、ダイエーが借入金比率の高い経営により、経営難に陥ったのに対して、イトーヨーカドーが無借金経営によって堅調な経営を続けている。そこからも、無借金経営の優位性が理解できる。バブル経済以後は特に、無借金経営による大きな自己資本比率の経営が有効であったと考えられる。

 私は、財務管理の勉強を進めていく中で、父の影響もあって、自己資本比率の大きい企業をより高く評価するようになっていた。個人的にも借金が嫌いな私は、企業の財務管理においても、無借金経営を高く評価するようになったのである。

 唐突だが、私は、日本の資本主義を「借入金資本主義」と名づけたいと思う。金融機関を頂点とし、「貸し出す」(企業から見れば「借り入れる」)ことによって成立していると考えられるのだ。別の言い方をすれば、「金融資本主義」なのである。

 ここ十年ほどの間に大企業においては、内部留保を厚くし、借入金を減少させている企業も多い。しかし一方で、中小・零細企業では借入金によって凌いでいる企業がいまだに多くある。会社の借入金が多く、それが理由で経営から離れることのできない経営者も多くいるはずだ。また中小企業の後継者難というのも、借入金が多く、財務内容が悪いことが理由になっているケースが多いのは、前述の通りである。

 この事情は、欧米でも同じかもしれない。しかし一方で、日本と比較してアメリカの資本主義を名付ければ、「資本金資本主義」なのであり、資本金を投資する投資家の存在が大きいのである。アメリカでは多くの投資家が、企業に資本金を投資するという習慣が根付いている。ちなみに、この場合は、企業の自己資本比率は大きくなるのである。

 いずれにしても私の価値観では、自己資本比率の大きな企業、できれば無借金経営の企業を高く評価することになる。税金を払ってでも、自己資本を内部留保していってもらいたいというのが、私の企業経営に対する希望である。

5.自己資本の充実による財務内容の改善

 どんな企業においても、経営者の最大の役割は、企業を継続させることである。いわゆるゴーイング・コンサーン(継続企業体)というものが、企業の経営者にとって命題であり、使命である。

 企業を継続させるためには、財務的にどのようなことを目指したらよいのだろうか。

 それを一言で記述すれば、「自己資本を充実させる」ことである。利益を内部留保して、自己資本を充実させ、その比率を高めることである。また、貸借対照表上の負債の項目で言えば、借入金を減少させることである。無借金ならばそれに超したことはない。そうして、自己資本比率を充実させることが大切であり、それが経営者の、企業を継続させるための役割なのである。

 そういう目標に向かって経営することが、経営者の職業倫理だと考えられるのである。財務内容を改善させる手腕をもっていることが、経営者の大切な職業倫理なのである。このことは、借金嫌いの私の過度な思いかもしれない。しかし、経営者について、企業の経営について様々に考えてきた私の、一つの結論でもある。

 内部留保をして自己資本を充実させるためには、売り上げや利益を確保することが大切である。そのためには、経営者としての経営戦略のアイディアを立案し、社員に浸透させることが大切である。この場合の経営戦略とは、新規顧客の創造、既存顧客の維持をはかることだと考えられる。そのアイディアを社員に向かって提示し、浸透させる能力が必要である。これが、財務内容を改善するための、経営者の職業倫理であり、経営手腕である。

 ある卸売業の中小企業を訪問して経営者と経営についての話をしていた。経営者は、「自己資本によって、資本金を増額させることがとても大切だ」と述べていた。実際その会社は、5百万円の資本金を徐々に増額し、そのときまでに5千万円を超える額に達していた。私は、企業経営についての大きなヒントをもらったような気分になった。そして、この経営者は立派な考え方をしていると思った。

 その会社は、この経営者のリーダーシップによって、いまも堅調な経営を続けている。また、この経営者は高齢化しているが、後継者も決まっていると聞いている。ここからも自己資本の充実と財務内容の改善ということが、会社にとっていかに大切かを理解することができる。経営者の職業倫理として明記される必要があると考えられる所以である。

6.人的資源管理との両立

 読者の中には、2章で記述した「人的資源管理」と、この3章の「財務内容の改善」とは両立しないという疑問をもつ方も多いのではないだろうか。なぜならば、「財務内容の改善」は、人件費をはじめとするコストの削減を主張しているように聞こえるはずだからだ。2章で主張している人件費の増額をはじめとする「人的資源管理」とは矛盾するのではないかという、当然の疑問である。

 しかし、私が考えている経営者像は、会社のリーダーとして、両者を両立させる能力を持った人物ということになる。両者を両立させ得る能力が経営者には必要なのである。そういう選ばれた人物こそが、経営者になるべきなのである。その場合、経営者というのは「真のエリート」なのだ。そういう意味では、経営者に要求されるハードルは高く、それを超えることのできる人物こそが、経営者になり得る「真のエリート」なのである。

 そう考えてくると、第2章で述べた適切な「人的資源管理」と第3章で述べた「財務内容の改善」とは決して矛盾するものではない。むしろ両者は、止揚されるべき二つの課題だと考えられる。その両立こそが、経営者の職業倫理として重要なのである。

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